それは「ざざむし」
縁あって長野の人と一緒に生きていく事になり、
その人の故郷を訪れる度に随分といろいろなものを
食べさせていただいた。
今となってはどれも良い経験だと思っている。
しかしその時はそんな余裕などない。
だまされた、と思った。
「イナゴ」の佃煮は比較的早いうちに出た。
節足動物は瀬戸内の小エビと一緒だと自分に言い聞かせ、
何事もないような顔をして飲み込んだ。
足が引っかかってちょっと嫌だった。
葬式で出された「鯉の甘煮」は、煮付けなのにぱさぱさして
あまり美味しくない思ったが、仕方ないので食べた。
後で、この地方の人は鯉の煮付けが好きなのかと聞くと、
作っても誰も食べないからいつも残っていると言われた。
食べないものをなぜ作るのか未だに理解できない。
名物だからと食べに行った「ローメン」は、
その後さまざまなメディアで紹介される度に、
「それはやめた方が良い」と真剣に思うような料理だった。
とろろ状で甘い枝豆つぶし餡(ずんだ)を
餅米を炊いたご飯にでろでろかけた「ずんだご飯」は、
「これはおはぎだ」と思いこめば、普通に食べられた。
しかし同席した地元の人は殆ど手をつけなかった。
そして何度目かの訪問の折、ついに「ざざむし」が出た。
それは茶色っぽくて小さく丸まったものだった。
今までの経験から、少々生前の姿がグロくても
佃煮になっていれば皆一緒。何とかなると思っていた。
しかしこの時のざざむしは違っていた。
明らかに「虫」の形をしている。
「これだけはムリ」と本能が拒否したが、
貴重なものを振る舞っていただいている以上、
今更食べられませんとは言えない。
思い切って口に入れると「ぷに」という食感。
涙目になりながら飲み下すのが精一杯だった。
「辛くなりすぎたから水を入れたのよ」
本来なら甘辛く炒りつけられて味も食感もただの佃煮に
なったいたはずが、水を加えた事でもどってしまい、
生前の姿に近くなってしまっていたのだ。
出来れば普通の佃煮にして欲しかった。
そういえば、初めて遊びに行った日の昼食は
当時の私が大嫌いな納豆巻きであった。
そう言う運命なんだと思うしかない。
伊那三大珍味のラスボス「蜂の子」とも
いずれ相まみえる日が来るような気がする。
矢でも鉄砲でも持ってこい。
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